臨床例

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虚実を弁えて補寫する、何これ 2008.03.26

昔、八木下翁と言う鍼灸の名人がいました。治療技術は抜群の腕を持っていましたが、無口で人前で話することを大の苦手としていたそうです。ある日この人に鍼灸の極意を話してもらう企画が持ち上がり、講演をする事になりました。

当日は大勢の観客が集まり、どんな話が出るか聴衆は期待していました。ところがこの八木下翁は演壇に上がるなり,「鍼灸の極意は虚実を弁えて補寫することにあり」と一言いって壇上をさっさと降りてしまいました。

 

1時間半も公演時間を設定していた関係役員はその時間をどのように埋めるか大慌てした、という業界では有名な話があります。

 

虚実って、なに

 

さて、この虚実を弁えて補寫する、とはどういう意味かと申しますと、虚というのは元気がない、やせ、しびれ、冷え、等の症状を現して、そのために痛みや不快症状が出ている場所のことで、比較的お年寄りに多い症状です。

 

実とは神経が異常興奮して過敏状態になり、腫れ、赤み、痛み、こり感、重圧感などが出ている場所のことです。比較的若者に多い症状です。

 

補寫って、なに

 

虚「弱くなった所」には、そこを元気にしてあげるお灸や鍼をします、これを補「おぎなう」といいます。実「強くなった所」異常興奮して神経過敏になった所には、ここを寫す「神経過敏を押さえる」鍼をします。

 

すなわち弱い所「虚」と、強くなりすぎた所「実」をしっかり見極めてから、それに合った補、寫、の使い分けをした治療をして、身体のバランスを取ることが一番大切だと言ったのです。

 

臨床例

 

ある日、35歳の若者がきた。腰が痛くて、神経が両足の裏側をとおり足の小指まで走る痛みがあり、もう1ヶ月も続いている。立ち座りの動作に痛く、あぐらをかいても痛い、又、歩いたり、走ったりしても痛い、寝返りする時にも痛い、イスに腰掛けても痛くなる。前かがみの仕事でも痛い。今日は辛くて昼から会社を休ませてもらって来ました、と言う。

 

原因

 

35歳の若者で、痛みも強い、当然この痛みは実痛ではないかと思って診察していた。しかし、患部「仙骨部」の触診ではどう診ても虚痛にしか思えない、しかも治療点は仙骨部からかけ離れた首の付け根、太椎という骨の近辺にある。

 

そこでこの病気を推理してみた。この患者は1ヶ月前に風邪を引いて、風邪の菌が太椎近辺の神経を侵したものと思われる。その後、風邪は治ってしまったが、後遺症として太椎近辺の神経が侵された状態で今日まで来ているものだ。

 

太椎近辺の神経は、背筋を通って仙骨部で現れ、両足の裏側から小指まで走るような痛みとなった。

 

治療

 

そこで、治療点を太椎と定め、その近辺を知熱灸で施術した。治療が終り、寝台から降りて走らせてみた。痛みが消えている、腰の前後運動、あぐら、前かがみ、立ち座り、総ての動作で痛みがない。この患者、2回の治療で全治している。

 

考察

 

八木下翁の言う、虚実を弁え、補寫するという言葉には真実がある。当たり前のことのようだが、ここをしっかり弁えて、それに合った治療をすることが成否につながる。

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